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Agriculture and Farming
バイオ分野

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説明記事@:牛における遺伝子診断
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 肉牛の中には、肉質に関与する遺伝子について、(人間の都合にとってであるが)望ましい遺伝子型を保持している個体とそうでない遺伝子型を保持している個体がおり、この遺伝子は次世代へと伝わり表現型へ効果を発揮します。
 繁殖経営者や肥育経営者が所有している繁殖雌牛や人工授精に用いる精液がどのような遺伝子型を保有しているかを知り、望ましい個体を選抜することができれば、高能力な肥育素牛を安定して生産することが可能になります。

 遺伝子診断は、高品質な食肉の安定生産を可能にし、ひいては畜産経営の改善、消費者の健康増進に役立つと考えられます。

 元々、筋肉中への脂肪蓄積能力の低い肉牛個体をどのような良い栄養条件で飼養したとしても、十分な脂肪交雑が得られないことは生産者の皆様がご承知の通りです。なぜかというと、筋肉中への脂肪蓄積能力は遺伝的に決められているからです。
 そして、遺伝的素質はその個体が生まれ持つ遺伝子のDNA配列(遺伝子と呼ばれないDNAの配列も影響している場合もある)によって決められています。
 DNAの配列は牛全体で一定ではなく、個体ごとに僅かに異なる部分があります。そして、この僅かな異なりが脂肪蓄積能力や蓄積脂肪の軟らかさや美味しさに影響します。
 肉牛生産では、牡牛(雄種牛)の遺伝的素質を知ることも重要ですが、同時に母となる牝牛(雌牛)の遺伝的素質を知り、肥育素牛生産に適した雌牛を選抜することが重要です。子牛の遺伝子の半分は母牛から伝わるのですから、母牛の遺伝的素質が優れておりかつ遺伝的資質に優れた牡牛の精液を交配に用いれば、父牛からも母牛からも、優れた遺伝的素質が子牛(肥育素牛など)へと伝わり、高品質な牛肉の生産能力は確実なものとなるはずです。反対に、父牛の遺伝的素質が優れていても、母牛の遺伝的素質が優れていなければ、せっかくの父牛の優れた形質の発現は半減してしまうと考えられます。

 では、どのようにして、遺伝的素質を知ることが出来るのでしょうか。

「目的の形質に関連した遺伝子を診断すれば、遺伝的素質を知ることができます。」
 肥育経営の生産者が、9か月齢から10か月齢の黒毛和種肥育素牛を購入する際、念頭に置くことは、肥育素牛が脂肪蓄積や増体について望ましい性質を備えているかどうかであり、肥育素牛の父となっている種雄牛や母牛の父方の来歴を参考として購入の判断がなされます。

 現在の黒毛和種にはその成立の歴史があります。明治33年以降和牛の改良を目的として兵庫県と鳥取県はブラウンスイス種を、島根県はデヴォオン種を、岡山県はショートホーン種とデヴォン種を、広島県はショートホーン種、シンメンタール種、エアーシャー種、ブラウンスイス種を古来の和牛と交配しました。京都府は特に外国種を入れることなく主として但馬牛を用いて改良しました。すなわち、現在の黒毛和種の多くは外国種の影響を受けており、このような歴史を持つ黒毛和種の脂肪蓄積や成長に関する能力は古来の和牛に近いものや西洋の品種に近いものまで個体によりあるいは系統によって異なっています。
 個体の潜在的能力の差の多くは遺伝子の差によってもたらされており、近年の分子生物学の研究成果は、遺伝情報を肉用牛の生産へ利用することを可能にしました。

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1.脂肪交雑能力の診断
筋肉中脂肪蓄積能力に優れているかの診断(GH(成長ホルモン)遺伝子型の診断)

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 遺伝子に複数の塩基配列の型がある場合があります。牛成長ホルモンはアミノ酸191個あるいは190個からできています。これをコードする遺伝子すなわち成長ホルモン遺伝子は牛では第19番染色体にあり、約2800のDNA塩基対からできています。2800の塩基対のうちそれぞれ3つが(コドンという)1つのアミノ酸へと最終的に翻訳されます。そうすると、900個以上のアミノ酸ができることになり数が合わないのですが、実は、2800の塩基対のうちアミノ酸に翻訳されるのは一部分です。最終的にアミノ酸に翻訳される塩基配列部分はエクソンと呼ばれ、成長ホルモン遺伝子は5つのエクソンを持ちます。

 牛の成長ホルモン遺伝子には数種の塩基配列型がありますが、そのうちアミノ酸を変える変異は第5エクソンにあるコドン127(アミノ酸番号127)とコドン172の2カ所に見いだされています。コドン127の変異は西洋の品種に見られます。コドン172の変異は現在までのところ黒毛和種と褐毛和種にのみ見られます。

2カ所の変異の塩基配列型とそれがコードするアミノ酸は表のようです。コドン127の変異では、その塩基配列がCTG(シトシン・チミン・グアニン)からGTG(グアニン・チミン・グアニン)になることによりコードするアミノ酸がロイシンからバリンに変わります。また、コドン172ではACG(アデニン・シトシン・グアニン)からATG(アデニン・チミン・グアニン)に変わることによりスレオニンからメチオニンに変化します。また、コドン172のスレオニンからメチオニンへの変異はコドン127の型がバリン型である場合にのみ見られています。ホルスタイン種、ヘレフォード種、アバディーンアンガス種についてもこれまで調査されており、コドン172の変異は黒毛和種と褐毛和種の共通祖先が他の3種の祖先から分かれた後に起きたものと推定されています。

 長い牛属の歴史のなかで、成長ホルモン遺伝子のコドン127にロイシンからバリンへと変異をもたらす塩基配列の変化が起き、そのグループの一部にさらにコドン172にスレオニンからメチオニンへの変異をもたらす塩基変化が起きたということです。ただし、どちらの変異が先に生じたかを言うことは出来ません。

 成長ホルモン遺伝子にはアミノ酸を異ならせるような変異が2カ所有り、そこからは3種類の異なった成長ホルモンが作られることになります。ある牛が、父親と母親から同じ遺伝子型を受け継いでいれば(ホモ)体内には1種類の成長ホルモンが流れています。しかし、父親と母親から異なる遺伝子型を受け継いでいれば(ヘテロ)、血液中には効果の異なる2種類の成長ホルモンが流れていることになります。

 脂肪交雑や成長は肉用牛生産にとって重要な経済形質です。
 さて、成長ホルモンには複数の遺伝子型があり、異なったアミノ酸構成をもっています。ペプチドホルモンである成長ホルモンを構成するアミノ酸が変化すれば、当然その立体構造は変化するのであり、そのことにより成長ホルモンレセプターへの親和性も変化するのでしょう。また、血液中での成長ホルモンの寿命も変化するかも知れません。どのような微細な変化であっても影響があるのは確かでしょうが、影響として我々に見えるほどの変化をもたらすかどうかが大切です。成長ホルモンのコドン型と脂肪交雑評価(BMS)との関係は図のようでした。コドン127のアミノ酸型がバリン(塩基配列ではGTG)のホモ型の場合、バリンとロイシンのヘテロ型及びロイシンとロイシンのホモ型よりも統計的に有意にBMSが高いという結果になりました。なお、現在まで和牛にしか認められていない成長ホルモン遺伝子のコドン127は高い脂肪交雑をもたらすバリン型でした。このような場合、成長ホルモンは脂肪交雑の遺伝マーカーである、ということになり、成長ホルモン遺伝子の型の情報を育種・選抜の手段として用いることが可能です。
 また、遺伝子診断の結果を、良好な牛肉を潜在的に生産する能力を持つ牛から生産された牛肉であることを消費者に知ってもらうためのブランド化の手段としても用いることが出来るでしょう。

【参考文献】
 ・Method of evaluating useful cattle.
 (成長ホルモン遺伝子の多型情報を用いた高品質牛肉生産能力の推定)
  ・アメリカ合衆国 特許 (No. 7,157,231 B2) 2007.
  ・オーストラリア 特許 (No. 2001267834) 2001.

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(2)オレイン酸豊富・低融点良質脂肪の生産能力に優れているかの診断
SCD(ステアロイル コエンザイム エー デサチュラーゼ)遺伝子型の測定

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 牛肉の美味しさには脂肪の質が大きく影響し、脂肪の質には脂肪を構成する脂肪酸の種類が影響します。牛肉の脂肪が固いと牛肉本来の味を損ねます。牛肉、豚肉、鶏肉を比べた場合、牛肉の脂肪が最も固いことは誰でもご存知のことです。もともと固い脂肪をもつ牛肉の中でもさらに固い脂肪を含んでいる牛肉であったら美味しくありません。牛肉としては軟らかい脂肪を含んでいる方が美味しく感じられます。

 牛の脂肪には炭素数18の脂肪酸が多く含まれています。軟らかい脂肪は固い脂肪に比べオレイン酸(C18:1炭素数18、二重結合1つ)が多く含まれます。そして融け出す温度すなわち融点が低くなります。オレイン酸含量の高い脂肪は柔らかく牛肉を美味しくします。一方、固い脂肪では、ステアリン酸(C18:0炭素数18、二重結合なし)が相対的に多く含まれ、ステアリン酸含量の高いこのような固い脂肪は肉の味わいを損ねます。
軟らかい脂肪を作るオレイン酸などの二重結合が導入された脂肪酸は不飽和脂肪酸と呼ばれます。すなわち、オレイン酸は不飽和脂肪酸の一つです。一方、固い脂肪を作るステアリン酸には二重結合がなく、飽和脂肪酸の一つです。牛の体内では、オレイン酸はステアリン酸の炭素鎖に二重結合が導入されることにより作られます。二重結合が導入されることを不飽和化といい、ステアリン酸からオレイン酸への不飽和化反応を担っている酵素が、Stearoyl CoA Desaturace (SCD:ステオアロイル コエンザイム エー デサチュラーゼ)です。

 SCDをコードしている遺伝子のDNA配列には複数のタイプがあり、特にアミノ酸に翻訳されるある部はアデニンあるいはバリンをコードしている場合があります。そして、アデニン型を持つウシの脂肪はバリン型を持つウシの脂肪に比べ、統計的にも有意に低い融点を持ちます。すなわち、種オス牛や母メス牛のSCD遺伝子を検査してアデニン型を所有しているかを知り、アデニン型を持つ牛同士を交配すれば、軟らかく美味な脂肪を持つ子牛が生まれます。

 繰り返しになりますが、和牛の中には、上記2つの遺伝子GH遺伝子とSCD遺伝子について、家畜として望ましい遺伝子型を保有している個体、望ましくない遺伝子型を保有している個体がいます。遺伝子診断によって、自分が所有する繁殖雌牛や人工授精に用いる精液がどのような遺伝子型を保有しているかを知り、この情報を子牛生産の計画に利用することは、畜産経営の改善、消費者の健康増進に貢献します。
 また、ホルスタイン種にも、上記遺伝子の型についてバリエーションのあることが報告されています。F1生産の母親となっているホルスタイン種にも上記の遺伝子診断を実施することができます。

【参考文献】
 ・M.Taniguchi, T.Utsugi, K.Oyama, H.Mannen, M.Kobayashi, Y.Tanabe, A.Ogino, and S.Tsuji.   Genotype of stearoyl-CoA desaturase is associated with fatty acid composition in   Japanese Black cattle. Mammalian Genome, 14, 142-148, 2004.
 ・ステアロイールCoAデサチュラーゼの遺伝子型に基づき、牛肉の風味や食感の良さ等を判定する方法(日本国 特許 第3619833号 2007)


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